春の日差しの暖かさに、柔らかさに、自然と貴方を感じていた。
ああ。こんなにも、貴方は優しい。私は貴方の優しさに包まれていた。
卒業式のあの日からほんの数日しか経っていないのに、目の前に座る牧野は、あの日とは違って見えた。
そして、 話してすぐにその理由がわかった。
「ねえ、西門さん。美作さんて、凄い人だったんだね」
なるほど。気付いたんだ、牧野は。
自分が選んだ男の本当の凄さに。その優しさの深さに。
「この数ヶ月、ずっと守られていただろ?」
「うん。守られてた。知らなかった」
昔の牧野なら、守られるなんてまっぴらだ、と息巻いただろう。
司とつき合っている頃の牧野なら、守られてばかりでいいのかな、と首を傾げただろう。
でも今ここに居るのは、そのどちらの牧野でもない。
「ずっと前からだよ。あきらはずっとおまえを守ってる」
「ずっと前?」
「つき合い始めるよりも、ずっと前。よく思い返してみろよ。わかるから」
想いを廻らす牧野は、緩々と色濃くなる春の景色のように、その表情を深く変えていった。
暫くの間、そうしてじっくりと自分と向き合った牧野は、深い笑みを浮かべた。小さいのに深い笑み。
そんな表情どこで覚えたんだと突っ込みたくなるような、そんな美しい表情だった。
「そうだね。あたしはずっと守られてたね」
「そうだよ」
「あーあ。カッコ悪いな。全然気付いてなかった」
「アホ。あきらがおまえに気付かれるような守り方するかよ」
「まあ、そうなんだけどさ。でもこんなに気付かないでいたんじゃ、もうどこをどうとってお礼を言っていいのかもわかんないよ」
あきらが礼なんぞ求めるもんか、と思うけれど、その発想はいかにも牧野らしい。
ならば、ここはひとつ提案をしてみようか。とむくむく悪戯心が湧きあがる。
「別のかたちで礼をすればいいんじゃねえ?」
「別のかたち?」
「そ。たとえば、そろそろキスより先を許すとか」
キョトンとしたその表情が、意味を把握するのと同時に色を変えた。
目は大きく見開かれ、頬はみるみる赤くなる。
春の桜よりもずっとずっと深い色に。