「ちょっと使わせて」
その一言だけを告げてズンズンと厨房に入り、ミルクパンと牛乳を手にコンロに向かうと、両脇から小さな二つの頭がひょこりと俺の手元を覗き込んだ。
「こら、危ないぞ」
「お兄ちゃま、何作ってるの?」
「ホットミルク」
「お兄ちゃま、誰に作ってるの?」
「牧野」
「牧野のお姉ちゃま、来てるの?」
「そう」
「牧野のお姉ちゃま、具合が悪いの?」
「そう」
ふーん、と揃って返事をすると、そのまま静かになった。
やれやれ、と思いながら、ゆっくりと牛乳を掻き混ぜる。
二度、三度、掻き混ぜたところで、再び双子が口を開いた。
「甘くする?」
「するよ」
「絵夢と芽夢が好きなやつ?」
「そうだよ」
「牧野のお姉ちゃま、好きかな」
「きっとな」
「牧野のお姉ちゃま、元気になるかな」
「なってくれないと困る」
そこまで答えたところで、双子が揃って顔を上げた。
「牧野のお姉ちゃまが元気になる方法、芽夢知ってるよ」
「絵夢も知ってる」
なんだそれは、と不思議に思って二人の顔を見ると、二人はにっこりと笑って言った。
「お兄ちゃま、優しいお顔して」
「お兄ちゃま、ちゃんと笑って」
俺の言葉を待つことなく、二人は満足げに笑って去って行った。
「……」
ぽかんと取り残される俺。
耳の奥で、双子の言葉が弾けて揺れる。
――「お兄ちゃま、優しいお顔して」
――「お兄ちゃま、ちゃんと笑って」